これまで一貫して、感染症やその他免疫関連疾患における核酸(DNA, RNA)の免疫制御機構とその生理学的意義の解明、及び核酸を利用したワクチン、アジュバント、代替免疫療法開発を行っています。これらの研究成果をもと に、自身の臨床経験や治験審査の経験など最大限生かし、”Bench to Clinic”の具現化を目標にしています。
ワクチンは現存する医療技術の中で、その起源が最も古く、かつ最も成功したもののひとつですが、その分子レベルのメカニズムが解明されたとはいえない状況です。そこで我々の研究グループは、過去に成功を収めた感染症ワクチンや開発が進んでいる新規ワクチン、およびアジュバントによって引き起こされる宿主の細胞内、細胞間のシグナル伝達を分子レベルで解明することを研究の目標に掲げています。
本研究は1)感染症ワクチンによって活性化される自然免疫受容体を介した細胞内、細胞間シグナル伝達(ワクチンシグナル)の分子レベルでの全容解明を目指し、さらに2)生体内レベルでのワクチンの細胞内、細胞間のトラフィック、プロセッシング、抗原提示やエフェクター機構を細胞レベルで誘導または操作可能になる技術を開発することにより、多くの感染症、各種免疫疾患にも応用可能な次世代ワクチン開発への分子基盤を形成することを目的とします。本研究により、分子メカニズムに基づいた特異性の高いワクチンやアジュバントを開発することが可能になり効果のみならず安全性の向上も期待されます。
「新規ワクチン技術、アジュバントの開発」 アジュバントは強い自然免疫賦活化物質であることが多く、使いようによって毒にも薬にもなりえます。即ちアジュバントの有益な作用を最大限引き出し、有害な副作用をミニマムに抑えるための技術が必須となります。そこで我々はその特異性を上記のような自然免疫の受容体、シグナル伝達経路、エフェクター分子を介し高めるのはもちろん、DDS技術を用いて粘膜などの組織、細胞、細胞内ターゲッテイング能力を高めたアジュバントを開発しています。さらにこれらの研究成果を分子のレベルから生体のレベルに引き上げ、かつマウスから人のシステムに転換し、臨床の現場に還元するさせる作業を迅速に進めます。
内容としては:
アジュバントの分子レベルの作用機序に基づき、「有効」かつ「安全」な新規アジュバントの開発研究を推進することが可能となるよう、アジュバントデータベースの構築(詳細は以下)を続行し、次世代アジュバント研究会を基盤としたアウトリーチ活動を推進しています。その成果はワクチン、アジュバント開発研究者のみならず、ワクチン行政や消費者にも正確かつわかりやすい科学的エビデンスを提供することが可能になると考えており、ワクチン、アジュバントの有効性、安全性の向上技術の確立に寄与することを目指しています。またPMDAの専門委員、アジュバントのガイドライン作成の準備を行っています。
免疫学を基盤としたアジュバント開発研究は、感染症のみならず、がん、アレルギー、生活習慣病を含む各種免疫関連疾患にも応用可能な次世代ワクチン開発への分子基盤を形成し、またワクチン、アジュバントの「安全性」の向上にも貢献すると考えています。
我々はこの安全性に焦点をあて、アジュバントの有益な作用を最大限引き出し、有害な副作用をミニマムに抑えるための技術を開発する必要性があると考えています。その上で我々はアジュバントデータベースの構築に力を入れています。本プロジェクトが主体となって進めているこの「アジュバント安全性評価データベースの構築研究」は、(独)医薬基盤研究所を中心として発足した次世代アジュバント研究会の活動を基盤とし、日本各地の大学、国立研究所、試験機関と共同で開始されたものです。各種アジュバントによるヒト細胞や生体レベルでの生物学的反応を総合的に解析したデータベースを構築することを目的としています。
我々はDNAマイクロアレイによる遺伝子発現解析などの通常のデータベースだけでなく、トキシコゲノミクスやヒト血清のマイクロRNA解析による安全性を希求したアジュバントの評価、指標開発を行っています。具体的には以下のようなプロジェクトが進行中です。